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工藤一彦さん(下)引退後、スポーツ新聞でSG優勝戦の“読者プレゼント”予想 結果は…

工藤一彦氏

 ボートレースの魅力を伝えようとペンをとった、阪神タイガースOBの工藤一彦さん(67)。猛虎日本一戦士の精悍な風貌は影を潜めたものの、熱いハートは何ら変わらない。ボートにほれ込んだ意外な真相と、野球界との共通点などをつづった。


■えっ、素人のボクでいいの?


 ボクは現役引退後、あるスポーツ新聞の野球評論家として活動していた。


 ボートレースにのめり込んでいく契機は、担当デスクのひと言だった。


「ボートレース予想に挑戦してほしい。ボートをかじっている工藤さんなら問題ないでしょ。バンバン当ててください」


 対象レースはすべてのSG。ルールは優勝戦の買い目と金額、根拠を紙面で披露し、的中すれば払戻金額を読者にプレゼント。外れればクオカードをプレゼント。軍資金1万円でいざ勝負──。そんな企画だった。


 喉元まで「ちょ、ちょっと待って」というセリフが出てきた。ボートを知らないわけではなかったが、ボクはまだ素人も同然。そんな男がビッグレースの優勝戦予想をするなんて説得力を欠き、読者に失礼ではないのか。そんな思いがこみ上げてきたからだった。


 しかし、これもお世話になっている会社への恩返しのひとつだと考え、精いっぱい取り組んだ。記者用の取材IDを作ってもらい、近畿・中四国エリアは直接足を運んで生観戦。その他のエリアはテレビ観戦で予想に対応した。結果は五分五分ぐらいだったか。大恥をかかなくてよかったと、胸をなで下ろしたものだ。


 この仕事を引き金にハマった。会社で野球デスクと打ち合わせをしている時に、ボートデスクがやってくる。社内の記者たちを募って1万円ずつ出し合い、現場に向かうボート記者に預けて5レース分の舟券を買ってもらう。払戻金は頭割り。宝くじの共同購入のように楽しんだ。


 そのうち、ボクは仕事でもないのに1人でレース場に行くようになった。場所は聖地・住之江。取材IDを活用して関係者用の駐車場に車をとめ、ゲートの警備員とも顔なじみになるほど舟券を買いまくった。買い目はボクの好きな④①⑤、④⑤①。4号艇がまくりにいって鋭角ターンで仕留める。ぞくぞくする①④⑤のボックス舟券が中心だった。


チヌ釣りしながら、合間に鳴門ボートへ

 ボクは釣りも趣味にしている。車を飛ばしてよく足を運ぶのは、徳島の堂浦。手応えがたまらないチヌ狙いだが、うれしいことに近くにボートレース鳴門がある。釣りの途中で仲間に「昼から少し休むわ」と言って抜け出し、ボート場で楽しんでからまた釣りに戻る。懐かしい思い出だ。


 レース中の駆け引きや人対人の勝負など、ボートと野球には多くの共通点があると思う。中でも展示タイム。前検日から最終日まで、レーサーはコンマ数秒単位でタイムを縮めようとあらゆる手を尽くす。ここで大切なのがペラの角度。艇を浮かしたり切れ込んだりする重要なパーツだから、角度調整にはどのレーサーも気合を入れる。


 ボクはピッチャーだったのでよくわかる。スライダーやシュートを投げる時、手首にどういう角度をつければどういうふうに曲がるのか。角度によって緩急もつけられる。非常に繊細な部分だけに、ことのほか神経を使ったものだ。


 そしてグラウンドと水面には、ゼニが落ちているということも共通している。頼れるのは自分の力だけ。ボート界も野球界も、弱肉強食の世界なのである。


 最後に、タイガースの球団史上初のリーグ&日本一連覇を祈りながらペンを置きたい。日刊ゲンダイの読者の皆さま、おつき合いいただき、ありがとうございました。