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坂口智隆さん(中) たった6艇。でも当たりそうで当たらないからボートは面白いのです

大勝ちした②⑤①。以来、そんな展開になりそうなときは買うのがマイルール

 オリックスとヤクルトで活躍した坂口智隆さん。今回は、プロ野球選手も真似できないレーサーの凄さを語ってくれた。


 ボートを知らない人はたいてい「フルゲート18頭立ての競馬と違って、ボートはたった6艇で走って、だいたい1号艇が勝っちゃう。そんなのつまんない」って言いますよね。僕も最初はそんなふうに思っていました。でも、実際に始めてみるとそうじゃないんですよ。当たりそうでなかなか当たらないんですよ、これが。

 僕は釣りも好きなんですけど、魚が釣れないから面白い。ボートも同じで、当たらないから面白い。どこか共通しているところがあるような気がしますね。

 僕は以前、女子レースで展開をしっかり読み切って②⑤①という買い目で大勝ちしたことがあります。それ以来②⑤①が好きになって、そんな展開になりそうなレースは選手は誰であろうが買っておくというのがマイルールになっていますね。

 釣りそこなった魚のことをいつまでも悔しく覚えているように、ボートでも取りそこなった舟券のことのほうが取った舟券よりもよく覚えています。

 最近では昨年末、住之江で開催されたグランプリですね。数日前からめちゃくちゃ張り切って予想していて今回は2号艇の平本(真之)選手で決まりだと思って勝負していたのに、その平本選手がよもやの転覆であっという間に1マークで終了(笑)。あれにはガッカリしましたね。

 あの時、勝ったのは1号艇の石野貴之選手でしたけど、グランプリの1号艇といったら、そのプレッシャーはもうすごいだろうなあ。


レーサーを尊敬するようになったきっかけ

 野球と違ってボートは個人競技でお金がかかっているわけですし、個人で自分の舟券を買ってくれた人の思いを背負って走るわけですから、そのプレッシャーは半端ないと思いますよ。

 僕ら舟券を買う側の人間としたらA1クラスの選手といったら1号艇はほぼ10割勝ってもらわなくては困るという、そんな気持ちで買っているわけですから。3割打てれば御の字という野球とは同じアスリートでも全然違うと思いますね。

 以前、ヤクルトの西田明央選手の自主トレを手伝った時、レーサーの丸野一樹さんが来てくれたんですよ。いろいろと話を聞くとレース中に転覆したらとても危険で、下手をすれば死んでしまうこともあるという、まさに毎レース毎レース命がかかっているわけで、それだけでもすごいなと尊敬の気持ちを抱いてしまいました。

 ちょうどGⅠの大きなレースの前だったので、そろそろ減量を本格的に始めたところだと丸野選手は言っていましたけど、男子の最低体重はたしか52キロでしょう? 丸野選手にしても身長は170センチ近くあるんですから、食べるものもめちゃくちゃ気を使わなあかんのやろうなと考えるとホントに過酷なスポーツだと思いますよ。そこには野球選手には真似のできない、ボクサーとかに近いストイックさがありますね。

=つづく

(清水一利)


▼さかぐち・ともたか 1984年7月7日、兵庫県神戸市生まれ。神戸国際大付高時代は投手として活躍し、2年春に同校を初の甲子園出場に導いた。2002年のドラフト1巡目で近鉄に入団。高卒1年目一軍出場を果たすと、その後はオリックス、ヤクルトでも主力として活躍。22年に現役引退。プロ20年間で通算1526安打、打率・278、38本塁打、418打点。現在は野球解説者。