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名勝負物語⑥ 新美恵一との〝伝説の死闘〟を制した正木聖賢のG1初勝利

正木聖賢選手(©boatrace)

3度の渾身のツケマエーー第51回オールジャパン竹島特別優勝戦(2006年7月4日)

 1974年生まれ、今年11月には50歳になりベテランの域に達しながら、今もA1級で頑張っているのが広島支部の正木聖賢だ。

 両親が書家の家に生まれた正木は自身も幼い頃から書道を習い、将来は書家をめざしていたが、友人に連れていかれたボートレース宮島で、その後「SG完全優勝」を達成する市川哲也(広島)の走りを見て感動。ボートレーサーへと百八十度進路を変えるものの、今でもレースに出場していない時は書道の練習に励んでいるという異色の存在だ。

 その正木が地元のテクニシャン新美恵一(愛知)との死闘を制し、GI初優勝を飾ったのが2006年7月4日、ボートレース蒲郡での第51回オールジャパン竹島特別だった。

 優勝戦に駒を進めたのは、予選を1位通過した正木が1号艇、2号艇に森高一真(香川)、3号艇・今垣光太郎(福井)、4号艇・上瀧和則(佐賀)、5号艇・新美、6号艇・浜野谷憲吾(東京)の面々。しかし、正木はスタート展示で失敗。当時の規定によって6コース回りとなったため本番レースで1コースに入る権利を失ってしまうというアクシデント。しかも、その本番では④上瀧と②森高が熾烈なイン取り合戦を演じ、森高に屈した上瀧はインをあきらめて大外6コースに回る。その結果、内から②⑤①③⑥④という誰もが予想だにしなかった波乱を予感させる並びとなった。

新美恵一選手(©boatrace)

「鳥肌が立った」とSG覇者の磯部誠も絶賛

 レースは新美が好スタートから森高をマクリ、1マークを先頭で回る。ツケマイで追った正木が2番手をキープ。新美のトップは不動に見えたが、正木も離れない。2周2マークでも正木は全速ツケマイで追いすがって新美と艇を並べ、がっぷり四つのラップ状態で激しいデッドヒートを展開。最後の3周1マークで正木が渾身の3度目となるツケマイを繰り出すと、これがものの見事に決まって粘る新美をのみ込んで激闘を制した。

 この一戦は「伝説の死闘」と呼ばれ、SGチャンピオンの磯部誠選手は「最も影響を受けたレース」「鳥肌が立った」とYouTubeで絶賛している。

 表彰式では「4コースに入ろうと思っていましたが、3コースになってしまいました。汚い進入になって申し訳ありません」と、律義な正木らしくファンに頭を下げたが、彼にとってはうれしいGI初優勝となった。 (清水一利)