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特別インタビュー 元ボートレーサー 熊谷直樹さん③ 暮れのグランプリが常の目標。それには、勝率でなく賞金を稼ぐしかない

獲得賞金がその選手の評価のすべて

 現在はボートレース解説者として活躍中の熊谷直樹さん。生涯獲得賞金16億1200万円を誇る熊谷さんが現役時代、常に意識していたことは何だったのか?


 前回、いかにしてアウトコースから勝つかを常に考えていたという話をしたよね? 外からマクって勝つのは、見ているファンの皆さんもスカッとすると思うけど、乗っている選手だって同じ。やっぱり同じ勝つにしても5コース、6コースからマクって勝つほうがはるかに気持ちがいい。何しろ濡れなくて、逆に自分のしぶきをみんなに浴びせることができるんだから、してやったりだよね(笑)。

 外から勝つための作戦をスタート前から決めているということはありません。とにかくいいスタートを切る。あとはマクるか差すか、瞬時の判断です。判断通りに大マクリやマクリ差しが決まった瞬間は本当にうれしいよね。

 現役時代、1コースで勝ってもそんなにうれしくなかった。だって勝って当たり前だもの。その代わり、勝たないと何やってんだって怒られちゃう。だから1コースは逆にプレッシャーがあったよね。とくに大きなレースは期待も大きいから、ゲロを吐きたくなるほど胃が痛くなる。インはインで大変なんですよ。

 そもそもレーサーは誰しも勝ちにこだわって勝率を上げようとする。勝率でA1とかA2が決まるからね。でも、僕にいわせればプロスポーツであるボートレースは、勝率じゃなくて稼いだ賞金額がその選手の評価の全てなんだ。いくら8点を超える高い勝率を誇ったって稼いでなけりゃ意味がない。勝率8点台の獲得賞金ランキング5位よりも、7点ちょっとでも賞金1位のほうが価値があると現役時代の僕は思っていたね。

1998年の賞金王決定戦(グランプリ)の優勝戦。⑤熊谷選手は前年に続いての堂々の2着だった。優勝は③太田和美選手

レーサー冥利に尽きる優勝戦の雰囲気

 僕が賞金にこだわったのは、獲得金額によって出場できるかどうかが決まる年末のグランプリの存在がすごく大きい。年末が近づいて、例えば11月のチャレンジカップぐらいになってくると自分の位置がどの辺にあるのか、気になり意識しましたよ。

一度でもグランプリに出ちゃうと、あの熱気と興奮の独特の雰囲気がクセになる。それも優勝戦ともなると、口から心臓が飛び出るんじゃないかってくらい緊張するんだけど、それが逆に心地いい。何度でも味わいたい、まさにレーサー冥利に尽きるというのはあのことをいうんだろうなあ。

 現役時代、常に頭の中にあった一番の目標は年末のグランプリに出ることだった。でも、辞める3、4年前、50歳を過ぎた頃から首も腰もヘルニアになっちゃってて思うようなレースができなくなってグランプリの出場が難しくなって、いつ辞めようかなあという考えが頭をよぎるようになってきた。その間、一度A1から落ちた時にはここまでかなと思ったんだけど、すぐにA1に復帰できたこともあってグランプリに出られる可能性が1%でもあるなら頑張ろうと、最後はそれをモチベーションに頑張っていた。グランプリの存在はそのくらい大きいんだよなあ。 =つづく

(聞き手=清水一利)


▼くまがい・なおき 1965年3月生まれ、北海道・旭川出身。85年多摩川でデビュー。東京支部に所属し「北海のシロクマ」の愛称で人気を集める。2021年12月引退。SG優勝2回、GⅠ優勝8回。現在解説者。